第5回 「復興計画の主な論点と課題:陸前高田から」きたかみ震災復興ステーション
【講演題目】 「復興計画の主な論点と課題 : 陸前高田から」
【講演者】 東京工業大学 教授 中井検裕
【日時】 2011年11月29日(火) 18:30~20:00
【場所】 きたかみ震災復興ステーション
【参加者】 東京工業大学教授 中井検裕 九州大学名誉教授 秋本福雄
早稲田大学教授 佐藤滋 明治大学 高橋潤
いわて連携復興センター 葛巻徹 弘前大学教授 北原啓司
北上市役所 いわてNPO-NETサポート 弘前大学 4年 村上早紀子
〇はじめに
復興計画とは、市の総合計画にあたるものである。陸前高田市は今年2月、その計画を見直し、パブリックコメントを募集している最中であった。そのとき、3.11の大震災が発生したのである。震災への対応により計画策定が途絶えてしまい、現在も宙ぶらりん状態だ。
復興計画をたてるにあたっては、産業の観点が重要である。しかし今日はその観点にはふれず、都市計画の観点を中心として、お話ししたい。
〇陸前高田とのかかわり
私は今年4月、国土交通省から、復興計画策定にあたり相談を受けた。それを引き受け、現在、陸前高田の復興計画委員長を務めてさせていただいている。
また、各被災市町村には「作業管理委員」というものがいるが、私は陸前高田でこの役職を依頼された。これは予算がついている限り担えるため、来年2012年度の3月まで、ということになる。
8月から11月30日までは、陸前高田市復興計画検討委員会の委員長を務めさせていただいた。
復興計画をたてるにあたっては、まずは調査をしっかり行い、そのうえで市町村を助けていくべきだと考えている。
調査の例として一つ目は、被害状況を詳細に調査するというものだ。二つ目は、復興パターン調査というもので、これは各市町村に一つずつ存在する。このように、調査は複数存在するものである。
〇経過① ~復興計画づくり~
復興計画づくりは、5月から開始され、11月30日で策定される予定である。
これには検討委員会が関わっており、8月から11月30日の期間、50人の委員、11地区のコミュニティ代表者で構成されている。
しかし、委員は年配者ばかりであるのが課題だ。若い世代の声も必要との意見から、「若手と語る会」というものを開催し、若手の声を取り入れようと努めてきた。
〇経過② ~復興パターン調査~
計画づくりでは、主に三つの調査、「区長ヒアリング」、「被災者意向調査」、「市民アンケート調査」を6月より行ってきた。
「区長ヒアリング」は、11地区中、被災した8地区の区長が対象であった。「高台ならどの地域に行くのが望ましいか」など、聞き取りを行った。
「被災者意向調査」は、全数調査の下、郵送で行った。住民の再建意向をはじめ、さまざまな項目について、全世帯を対象に調査した。
その他、「地区別説明会」、「地区別説明会・個別相談会」なども行っている。これには多くの市民の方が訪れ、今後の住まいに対する不安がみてとれた。
〇経過③ ~決定に向けて~
11月末からは「復興整備計画」の段階になり、ここで具体的な事業を考えていく。同時に、「復興交付金事業計画」も考えていくが、追加や見直しも含め、事務的に最も難しい問題である。
予定では、3月に都市計画が決定される。しかし全てが決定されるのは、相当厳しいという現実がある。
〇人的被害の状況
陸前高田市では、平成23年7月21日の消防庁発表に基づくと、総人口の1割弱にあたる約2000人が死亡・行方不明であった。
被災者数、人口に対する被災者の割合はともに、全国被災地の中でも最大級である。
さらに、用途地域の浸水面積率も、全国被災地の中で最大規模であり、ほぼ全て浸水という状況である。
地区別にみていくと、高田地区と今泉地区での死者の割合が、それぞれ10%と高い。
〇建物被害の状況
全世帯の半数に近い、約3,900世帯が全壊・大規模半壊である。
被災戸数 |
|
全壊 |
3,159戸 |
大規模半壊 |
97戸 |
半壊 |
85戸 |
一部損壊 |
27戸 |
合計 |
3,368戸 |
被害状況 |
被災世帯数 |
総世帯数 |
8,068世帯 |
全壊 |
3,803世帯 |
大規模半壊 |
118世帯 |
半壊 |
116世帯 |
一部損壊 |
428世帯 |
例えば、一階のみ突き抜けて損壊しているという建物は、1か0であり、ほとんどない。「真ん中の領域」という被災戸数が少なく、ほぼ0である。多くが文字通りの全壊状態であり、基礎のみが残っているのだ。
地区別にみていくと、やはり高田地区、今泉地区の建物被害が大きい。今泉地区に関しては、99%が全壊状態で、残った建物はごくわずかである。
〇論点1 : 防潮堤① ~国と県の方針~
国と県の方針がある。
まず国の方針によると、基本的に二つのレベルの津波を想定している。「頻度の高い津波、最大クラスの津波であり、対策が困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある」という考えに基づいている。
県の方針では、「津波に対してはどのような場合でも、避難することを基本とした上で、概ね百数十年程度の頻度で起こり得る津波に対しては、防潮堤等のハード整備により、生命と財産を確実に守るとともに、過去に発生した最大津波に対しては、ハード整備とソフト対策を組み合わせた、多重防災型の考え方で、生命を確実に守る」とされている。
〇防潮堤② ~防潮堤の高さ決定方法~
津波の侵入の防止を条件とした、津波シミュレーションを行う等により、地域海岸内の津波水位分布を算出し、隣接する海岸管理者間で十分調整を図ったうえで、設計津波の水位を設定するものとする。
この津波シミュレーションとは、数十回も行うものである。今回の数値計算の結果では、明治三陸津波、昭和三陸津波の際には10mに満たなかった防潮堤高が、東日本大震災の場合は20mをも超えるものと判明した。
〇防潮堤③ ~市と県の協議~
市は当初から、市街地のまちづくりの観点から、15mの高さを要請していた。L1対応の防潮堤では、L2時の市街地の予想浸水深は5m以上となる。市としては、JR大船渡線以北の土地を、安全を確保した上で利用することを望んでいる。
しかし今年9月末、県から正式に12.5mの提示があった。陸前高田は平場が多いため、15mの数値で要請していたのだが、横の地区との公平さを考慮すると、この地区のみ特別にはならないという背景があった。
ちなみに、市民のアンケートによると、「復興に向けて早急に整備すべき基盤施設」、「津波防災・減災に必要なこと」の項目それぞれで、最も回答が多かったのが「防潮堤」であった。なお、このアンケートは18歳以上の市民を無作為に抽出したもので、被災していない方も含まれている。
私が思うに、防潮堤を建設しないという議論はありえない。これに関しては、公共の責任ですすめていくべき課題であろう。
〇論点2 : 土地利用① ~安全性の確保~
レベル2の津波に対しても、国の方針よりさらに一段の安全性の確保を目指すということが、市役所の基本的な意向である。
今回、浸水区域内を宅地用途とする場合、レベル2津波時においても浸水しないよう、土地の嵩上げを実施する。住宅用途については、その他用途以上の安全性を確保する。例えば山際への立地、一層の嵩上げ、建築規制などである。
また、歩行者や自動車にとっての避難路、避難滞留空間の整備も重要である。避難する際、確かめながら逃げることになるので、滞留が起きやすく、それが避難を妨げたケースも生じた。そのため、道中などに滞留空間をつくることで、速やかな流れをもたせる必要があろう。その際、容量とわかりやすさの確保が課題である。
〇土地利用② ~地域別方針(長部・米崎・小友・広田)~
この地域は、基本的には漁港を中心とした集落である。そのため12.5mの防潮堤は中途半端な高さであり、漁港には不適切なのだ。
浸水域は、原則として非居住用途とする。すると住宅は高台移転ということになる。早く住まいを取り戻したいという場合は、自力再建という方法があり、それでなければ防災集団移転促進事業という方法がとられよう。
〇土地利用③ ~地域別方針(竹駒・不矢作)~
ここは気仙川沿岸、海岸よりやや下がった地区である。住宅再建に関しては、現位置もしくは高台である。ここでは、現位置で再建したいという方々が多い。
また、避難路としての国道の整備を改良する必要がある。
〇土地利用④ ~地域別方針(高田・今泉)~
高田と今泉は、陸前高田でも中心となる地区である。今回、この二つの地区の復興が大きな課題である。
高田地区に関しては、平場を利用して中心性を確保する必要があろう。
住宅再建は、嵩上げ後の現位置か、もしくは高台になる。市役所内では、高台にすべきという意見が多い。
さらに、二つの核である地区をつなぐ新幹線街路と、新橋の整備が課題である。
〇住民の再建意向
市民アンケートによると、希望の住宅の種類は、回答が大きい順に持ち家(戸建て)、持ち家(店舗等併用)、戸建ての借家、アパート、公営集合住宅、未定、その他であった。
持ち家(戸建て)に関しては、55.5%と半数を超えている。公営住宅の回答は8.7%であり、我々にとっては、10%にも及ばなかったことが意外であった。
再建の意向については、「自力で新築、改修、修繕」という回答が最も多い。それ以降は、「可能であれば新築、改修、修繕」、「借家、集合住宅に入居」、「親族等の家屋に同居」が続く。
〇希望の場所
市民アンケートによると、高田地区と今泉地区ともに、「市外」よりも「市内の高台」の希望が多く、半数を超えている。安全な場所に移動したいという考えが目立つ。
ここでは、被災者への選択肢の確保が求められ、住民にそれを示すことが重要であると考える。
これまで地区説明会を開催してきたが、今泉地区に関しては、当初の復興計画図を変更して、高台へ再建するという選択肢を増やすよう書き換えた。
ただし、高田地区に関しては、選択肢は実はあまりない。市役所は高台に建設すべきという意見が多数である。また、「防災メモリアル公園」の案があり、これが大きな鍵となる。
〇論点3 : 人口フレーム
陸前高田市は近年、人口が著しく減少してきた。一方、高齢化が急速に進行しており、こうした中で復興計画をすすめていくというのが現実である。
復興計画での想定人口は、2.5万人である。現段階での復興計画図は、意図的に人口に対して過剰である。被災者の意向は、時間とともに刻々と変化するものだ。それに柔軟に対応した計画づくりが必要であろう。
〇2012年3月までに
作業管理委員という立場の下、最低限やるべきことがある。
それは主に、復興計画の議決、復興交付金事業計画の作成、復興整備計画案の作成、JRやバスなど交通関係の検討である。
被災者の意向を詳細に把握し、相談していくうえで、地区協議会を開催していく必要がある。そこでは具体的な事業の中身を掘り下げ、合意形成を図るべきであろう。
また、事業のための地権者や、詳細技術を調査していかなければならない。高台に住宅を再建するにしても、地権者とまだ折衝していない場合が多い。本当に土地を売っていただけるのかどうかも未定である。
こうした事業に向けて、しっかりとした体制を整備していく必要があろう。
〇質疑
○(北原先生)
陸前高田市の復興整備計画は、現時点ではどのような段階であるのか。
(中井先生)
大きく分けて三つの段階がある。大きな指針は全体的なもので、都市マスにあたるものだ。
三月には都市計画が決定される予定だが、全てを確実に決定するのは不可能であろう。まずは最低限について、決定されると予想される。
○(秋本先生)
現地に関わってらっしゃるコンサルタントは、何名なのか。
(中井先生)
専属ではないのだが、のべ10名である。しかし、実際にはさまざまな調査が存在するため、多くの委員が関わっており、一体どれほどいるのだろうという想いである。
会議では、現場的な話と、それとは別の話が散在している。しっかり分けるべきかとは思うが、まとまらないことも多い。
さらに、コンサルタントはあくまでも委託・受託の関係であるので、市役所との関係が時には難しいこともある。
○(北原先生)
市民アンケートをとると、戸建て住宅に住むことを希望する人が多い。しかし、必ず再建できるものだと勘違いする人もいる。絶対的に保障してもらえるという発想があることが窺える。
(中井先生)
陸前高田市では、戸建てを望む人は7~8割に及ぶ。例えば1000万円であった土地が、700万円まで下がっている例がある。
○(佐藤 滋先生)
防潮堤に関して、例えば海岸線に設置するという議論は発生しないのか。
(中井先生)
シミュレーション上、浸水域を超えたり、広がったりするため難しく、微妙である。安全性の確保を考えるうえでも、さまざまな課題があるのである。
陸前高田市には、元々まとまりがない地区もある。高田という地区の下、小さな集団が自発的に発生してくれることが望ましい。
○(秋本先生)
都市計画決定が三月、という日程は厳しく、通常は不可能ではないのだろうか。
(中井先生)
たしかに不可能である。高台地権者や、行政協議にも多くの課題がある。さらには学校の統廃合の問題も存在するのだ。とりあえず地元としては、病院だけは必ず安全な場所に建設すべきだとの意向がある。
現在、国道沿いには商業施設が出来つつある。仮設店舗など連なり、ロードサイドのようになっている。元々空き地であった場所に仮設店舗が建つなど、まるでまちなか状態であるのだ。
○(北原先生)
JRとの議論も、すすみにくいのではないだろうか。
(中井先生)
今回の震災では、踏切で渋滞が生じたことで、逃げ切れなかった方々が多いと聞いた。今後、踏切をどこに建設するかについても、JRとの意見の食い違いがあるのが現状だ。