第4回 「震災からの復興に向け、何ができるか、何を求められているか」きたかみ震災復興ステーション
【日時】 2011年 11月15日(火) 19:30~21:00
【場所】 きたかみ震災復興ステーション
【参加者】 安田侃、小林英嗣、斉藤浩二、安田琢、小地沢将之、北上市役所、北原啓司、村上早紀子
〇参加者概要
・安田侃さん 北海道出身の彫刻家。現在は主にイタリアで活動する、世界的なアーティスト。
・小林英嗣さん 北海道名誉教授、「都市・地域共創研究所」代表理事、「日本都市計画家協会」副会長
・斉藤浩二さん 「株式会社KIABA」代表取締役会長、技術士(建設部門)、北海道大学非常勤講師、東京農業大学客員教授
・安田琢さん 「タック有限会社」、専務取締役、NPOアルテピアッツァびばい理事
〇はじめに
(安田侃さん)
3.11の東日本大震災の時、私はイタリアにいた。その時はテレビで、震災の状況を目にし、ただならぬ事態だということを感じていた。
実際に、被害状況をこの目で見たいと思い、今回は一部の被災地を訪れた。中でも特に、女川の被害状況は凄まじかった。現在、復興はどの程度まで進んでいて、どのような状況であるのか。また、ここ北上ではどのような復興支援を行っているのか知りたい。
〇これまでを振り返って① ~震災、復興~
(北原先生)
震災以降、我々は復興計画を担うなどして、被災地各地と関わってきた。
半年以上経過した現在、思う事は、「答えは一つではない」ということである。今回の震災による被害はとにかく大きすぎて、一つの答えでまとめられるものではない。
福島から青森にかけて、全てに被害が及んでいる。しかも被害状況は各地域で異なる。そのため「東北」という呼び名でまとめるのではなく、一つ一つ知り尽くしていかなければならない。
〇これまでを振り返って② ~北上市というプラットフォーム~
(北原先生)
北上市は震災以降、岩手県の中でも「プラットフォーム」的な役割を担っている。
岩手県沿岸は今回の震災で、壊滅的な被害を受けた。現在も復興が容易に進んでいない地域が多く存在する。
そこで、比較的に被害の少ない北上市を情報発信の拠点として、これまでさまざまな支援活動を行ってきた。沿岸地域、例えば大船渡市には、北上市から支援部隊が派遣されている。また緊急雇用対策として、被災地の雇用者、数十名を職員として採用してきた。
そもそも北上市をプラットフォームとして選んだ理由であるが、北上市には、横のつながりを大切にして、元気に活動しているNPOが存在するからだ。
単に建築や土木などといった構造的な視点のみならず、つながりやコミュニティといったソフトの視点からも復興を考えなくてはならない。どこかがいち早くではなく、みんなで進めていこうという姿勢を持つ、そうしたNPOが根付く北上市が発信源となることは最適だとして、プラットフォーム作りに勤しんできた。
(小原さん)
私は「北上市沿岸地域被災者支援プロジェクトチーム」としてこれまで活動している。
特に大船渡市では、これまで幾度もミーティングを重ねてきた。最近は週一回程度、開催している。
震災後、北上市長の「沿岸地域も元気にならなければ」という言葉の下、早くから沿岸地域の支援を行ってきた。5月からプロジェクトチームを発足し、現在に至る。
また、沿岸地域からの雇用も募り、約580名を北上市が採用している。
我々にとって、先生方の支援が貴重であるし、必要である。今後ともアドバイスいただきたいと思う。
〇これまでを振り返って③ ~きたかみ震災復興ステーション~
(北原先生)
「きたかみ震災復興ステーション」は開設して、6か月になる。ここには県内のさまざまな情報が集まっており、震災の情報を発信する場となっている。また、一カ月に数回、「復興サロン」というものを開催している。この会では、外部からさまざまな方を招いて、講演していただいている。
先日は、仮設住宅で支援活動を行う千葉大学の鈴木雅之先生、園芸療法で被災者支援を行う天野玉記先生という、全く異質な支援活動を務めているお二方に話していただいた。我々にとって非常に勉強になっている。
復興ステーションは開設して半年であるが、やはりまだこれから、という想いでいる。おそらく来年春から、もう少し見えてくるものもあるだろう。
さらに、こうして外部から招いて講演していただくたびに、毎回感じることがある。それは、ただただ「大変だな」ということだ。情報が溜まれば溜まるほど、それに溺れていく。我々にとってまだまだ知らない状況や、被害の深刻さが存在している。
私がかつて大学で学んだような、都市計画の手法では対応しきれない事態であるのだ。
〇これまでを振り返って④ ~阪神淡路大震災とは異なる状況の中で~
(北原先生)
誰もが何もノウハウを持っておらず、初めてのことに直面しているのが、今回の震災である。
阪神淡路大震災を経験した神戸の人々は、「我々の経験は使えない」と言っていた。それほど今回の震災は大規模なのだ。
震災から8カ月経っているが、未だに無力感がある。私は現地に足を運んでも、口から何も言葉が出てこないし、どうしたらいいのか分からない、途方に暮れているような状態だ。
しかし先日、あるシンポジウムでの講演で、少し元気になった。現地では、まだ動いている人々がいる。鯉のぼりをたてようという気持ちはなくなっていない。それを知った時、まだ元気になる道がこれからもあるのだと感じた。
〇被災地のこれから
(小林英嗣先生)
これから寒い季節がやってきて、暗い時間が長くなる。同時に、辛い時間、重い時間も長くなるのではないだろうか。
(北原先生)
仮設住宅では、皆で集まる時間が用意されてはいるが、やはり一人になる時間が多くなることもある。そのため孤独死などの問題が心配されている。
これから秋から冬にかけて、辛い時期がやってくるであろう。
〇イタリアでの報道
(安田侃さん)
これまで私はイタリアで、テレビ放送を通じて震災の状況を捉えてきた。当時は、ヨーロッパ全体のテレビ放送が震災の報道で埋め尽くされ、日本で昼に放送したニュースを、イタリアでは夜に放送、という状況であった。
あるテレビ番組では、「震災の規模は、例えるとミラノからナポリ」という表現をしていた。それで人々は恐怖に怯え、「震災から立ち上がることはできないだろう」と話していた。
正直に述べると、言葉では言い尽くせないものがある。
〇精神的なカバーを
(安田侃さん)
私が感じたことは、仮設住宅は狭い場所に建設されているため、近くには店舗も駐車場も存在せず、生活に困っている人々が多いのでは、ということだ。
また、現地では若い人の力が大きいと考える。支援活動を行っている人々の中には、若い力も多いと聞いた。こうした若い人々は、被災者と対話するなどといった精神的なカバーも担えるのではないだろうか。瓦礫処理などの肉体的なカバーのみならず、もっと精神的な活動をさせるべきだと考える。
〇仮設住宅の人々
(小林英嗣先生)
北上市プロジェクトチームの方々は、大船渡市の仮設住宅で暮らす人々と、ふだんどのような話をするのか?
(小原さん)
彼らは、これから先のことを心配しており、特に二年後からが不安なようだ。元の場所に住むことができるかのだろうか。職を失ってしまった人は働く場をどうするか。これからのことを強く心配している。
〇未だアクションが起こせていない状況
(北原先生)
被災地での復興計画に関して、委員会は終わっているものの、実際のアクションを起こせていない地域が多い。
例えば石巻市は、堤防に関する議論で止まったままだ。今後の大津波に備えるために、堤防を建設すべきとの動きがある。すると、堤防の高さは7~8mにも及ぶことになるが、それでは慣れ親しんだ川が見えなくなってしまう、という住民の反対の声がある。そのため、行政と住民との対立がずっと続いている状態だ。
一方で、周りのまちの復興が停滞している。石巻市はかつて合併したことにより、「大きなまち」となった。今回の震災でも、人口最大であった石巻市の死者数が最も多い。
堤防など大きな議論が続く一方で、震災被害の及んだ周りの小さなまちのことには議論が及ばず、停滞している。まちは小さな単位の方が、アクションを起こしやすいのだが。
〇法律により何もできないという状況
(北原先生)
今回、復興計画を進めるにあたり、壁となっているのが法律の存在である。実際に計画を動かしていくにあたり、最後の段階で法律違反、という現実が立ちはだかっている。
法律とは、平時の際につくったものである。そのため今回のような非常事態には適用させられず、結果として法律違反となり、何も行動を起こせないという状況が生じる。
〇「今こそ」
(斉藤さん)
自分にも何かできることはないかと考えてはいるが、「今さら行って何になるだろう」という気持ちもある。
それに、地域としてはどのような状況であるかが伝わっていない気もする。メディアを通じてもっと伝えられるべきではないだろうか。今こそ、そしてこれから実践していくべきだ。
(北原先生)
これから…来年の4月から、本当に動かしていくという姿勢になる。これまで以上に「動く」人々も出てくるであろう。
例えば女川は、震災当初と比べても未だ何も変化がない。復興計画はあるものの、アクションプランが立てられていないのだ。誰がどうするかなどの内容が欠如しており、復興の動かしようがない状況がある。
NPOの力もかなり重要ではあるが、NPOではとても解決しきれない問題もそこにはある。
(小原さん)
被災地の方々は、「忘却されていくことが恐い」と口にしている。
(小林先生)
すぐに何かできるわけではなくとも、芽が出た所を摘み取っていくことも必要ではないだろうか。気配みながら種を播くなど、地域ごとにみていくべきだ。
また、地域のコミュニティも守るべきである。元気な人がいれば、進んでいこうという気にもなれるはずだ。