第3回 「生活支援と地域価値向上のコミュニティビジネス」「花と緑による震災支援活動」きたかみ震災復興ステーション
【日時】 2011年 11月3日(木) 18:00~20:00
【場所】 きたかみ震災復興ステーション
【参加者】 鈴木雅之、天野玉記、北上市役所、弘前大学
Ⅰ, 講演題目
「生活支援と地域価値向上のコミュニティビジネス~ちば地域再生リサーチの活動を通して~」
講演者 千葉大学助教授 鈴木雅之
〇海浜ニュータウンとは
千葉県にある海浜ニュータウンは、戦後の高度経済成長期に開発された団地である。
人口は約12万人であるが、近年は急激に高齢化がすすんできた。一方で団地内の人口密度も高いため、極めて高齢化がすすんだ団地であるといえる。高齢化する現居住者が安心・安全に住むことができ、同時に新しい居住者を地域に呼び込むような、魅力あるニュータウンの再生プロジェクトが求められている。
〇団地の課題
①孤独死
一人暮らしの高齢者の中には、自宅で孤独死をするという事態もあった。
②エレベーターのない5階建て
ある市営住宅は5階建てにもかかわらず、エレベーターが設置されていない。そのため階段の上り下りに苦労している高齢者が多く、外出を控える傾向もみられている。
③買い物難民の発生
近くに買い物ができる店舗がないため、日常品の買い物に困難が生じている「買い物難民」の存在がある。これに関しては経済産業省の助成金がついたため、それを基に支援を展開していくこととなっている。
④リフォームが満足でない
住宅内で、例えば壁の損壊があっても、満足にリフォームがなされず、住宅環境が悪化しているケースもみられる。
〇勉強会の開催
上記の課題がある一方で、地域を再生するために、これまでに住民の間で勉強会が開催されてきた。中には、小学生を中心としたワークショップも実現している。講師に千葉大学の教員、サポーターに学生など、地域住民以外の者も関わってきた。
〇「ちば地域再生リサーチ」の活動
住民と協力する地域の福祉、住宅のリフォームを中心としたコミュニティビジネスを行い、地域の魅力を維持する活動をしている。
また、「大学教員」と「住民」がともに、魅力があり暮らしやすいニュータウン再生のための、実践を行うことを目的としている。
2003年8月に設立され、常勤職員3名、非常勤職員5名で運営している。活動内容は、主に以下の5つが挙げられる。
≪魅力ある街づくり 5つの活動≫
住民とともに地域力を高め、魅力ある地域づくりと地域の再生を行う。
①住まいのサポート
修理・模様替え、DIY支援(※)、安心リフォーム
②暮らしのサポート
買い物支援、安否確認、子育て支援、レディース隊(※)の活動
③コミュニティ形成
拠点づくり、コミュニティ活動支援、ワークショップ
④再生戦略づくり
エリアマネジメント、商店街活性化、リノベーション
⑤地域との連携
担い手との連携、民間企業との連携、行政との連携
※DIY支援
Do It Yourselfの略称である。
地域内での住宅リフォーム依頼は、デザインなどはじめ、年間100件以上に及ぶ。
そこで、自分でできる部分は自分でリフォームし、他は職人が手掛ける、ということが基本である。例えば、表層系などは自分で行い、高度な技術が必要な場合は職人の手を使い、同時にレディース隊が壁の張り替えを行う。
※レディース隊
団地内で、買い物支援や住宅のリフォーム、リフォーム補助を行う。地域内に住む5名の主婦で、高齢の女性あるいは子育て期の主婦に限定している。時給850円の下、活動している。
特に買い物支援では、住民が店舗で購入した品物を、自宅まで運ぶ支援をしている。初めは一回につき200円で担っていたが、現在は一袋50円で運んでいる。
今秋からは、i-padを使った買い物支援を取り入れる予定だ。高齢者が自宅にて、i-padを用いて商品を注文し、レディース隊が配達する仕組みである。
こうした買い物をはじめとした支援サービスを、地域内で行っているのがレディース隊である。
〇団地学校
団地内にある地域密着型スクールで、地域人材の参画を柱としている。
講座数は約23、赤字を防ぐため参加者は三人以上、という条件の下それぞれ開講している。
世間一般では「コミュニティビジネスは利益にならない」という声を聞くことがある。しかし、決してそのようなことはないと私は考えている。ここでは、収益講座から非収益講座に回すしくみをとっている。
「折り紙教室」の例を挙げてみよう。ここで講師を務めるのは高齢の方だ。教える相手は子どもかというと違って、同じく高齢の方である。つまり高齢者が高齢者に教える、という世界なのだ。講座に参加することによって引きこもり防止になり、さらには話し相手にもなっている。
〇課題
①補助金漬けであること
②NPOとしての課題
・「事業性」と「地域性」、「社会貢献」の二重構造であること。
・さまざまな人が入ってくると、マネジメントが困難な場合があること。
・組織マネジメントの難しさ、地域コンセンサスづくりの難しさ、意識のずれ。
〇めざすもの
公共も民間も手が出せない課題というものが、必ず存在する。それをカスタマイズしていくのは我々である。加えて、地域価値の向上のために努めていきたい。
〇塩釜ワークショップで
先日、塩釜でのワークショップに参加した。塩釜では「仮設カフェ」が開設されていて、20~30人もの人々が集まった。話を聞くと、「支援されるよりも支援したい」という考えを持つ人が多い。また、仮設住宅のリフォームに関する相談も目立った。
〇質疑、意見
(北原先生)
仮設住宅では時間が経過していくと、自ら植物を飾ったり、リフォームしていく人々は多い。そのことが自由に可能かどうかは別として、仮設住宅を離れる際、設備として返せる状況であれば、問題ないであろう。
Ⅱ, 講演題目 「花と緑による震災支援活動」
講演者 臨床心理士、兵庫県立大学専門職大学院 天野玉記
〇園芸療法とは
臨床心理士である私は、阪神淡路大震災の際、PTSD患者の支援を担ってきた。今回の東日本大震災以降は、長町の仮設住宅などで支援活動を行っている。
私の専門は「園芸療法」である。園芸療法とは、園芸をセラピーの手段として用いる手法だ。今回、岩手県の被災地を訪れ、景観園芸学校で講師も務めた。
〇花と緑の活用
①日常ストレスを減らす
ストレス耐性を強くし、ストレス症状の発症の閾値を引き上げる。
②コミュニティ作り、仲間作り
仲間との会話で分かち合い、一人ではないという気持ちが持てるようになる。
③未来志向型に認知を変える
過去と現在だけになりがちなストレス状態から、未来へ目を向けるきっかけになる。
〇さまざまな活動
①ハーブによる手浴
②芝人形作り
頭からは本当の髪の代わりに草が生えてくるなど、植物状の人形を作る活動である。少しずつ生えていく様子は、未来志向型へとつながる。高齢者がこれに参加し育てていると、非常に喜んでくれる。
③男の料理教室
山田町で、被災して妻を失った、などの男性を集め、料理教室を開催した。そこでも園芸療法を取り入れた調理学習をした。食とハーブを利用した調理も開催している。
④スイセン植栽
陸前高田市では、スイセンを植える活動を行った。
〇阪神淡路大震災の教訓
このとき、仮設住宅での孤独死が大量発生した。我々には、神戸の失敗は二度と繰り返さない、という強い想いがある。
被災地ではこれから冬を迎え、引きこもりがちになる人々もいるだろう。そうならないためにも、コミュニティづくりや支援を訴え、改善していきたいと思う。
〇めざすもの
①私たちが担うもの
指導者の指導をしに、支援者の支援をしに、私たちは行くのである。
②地域コミュニティの育成
私は岩手県で活動していて、県民の方々の優しさに非常に魅力を感じた。こうした県民性が、コミュニティの活性化につながればいいのではないだろうか。地域の力で、PTSDやアルコール中毒などの症状を出さないよう、努めていく必要がある。
③まずは考えさせる
被災地では、「どうすればいいのか」という声があるのはもちろんである。しかし何事も、全てそのまま提供するのではなく、まずは考えさせることが重要だ。そうした支援のあり方の下、今後も活動していきたい。
Ⅲ, 参考
「ちば地域再生リサーチ」ホームページ
以上