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事業趣旨きたかみ震災復興ステーション 

〇はじめに

〇北上市における被災地支援の取り組みについて

〇きたかみ復興支援協働体とは

〇きたかみ震災復興ステーションの機能

〇なぜ北上が設置できたか~北上市の地域づくりの推進~

〇さらなる沿岸地域支援に向けて

〇きたかみ震災復興ステーションの可能性

〇はじめに

岩手県の沿岸市町村は、東日本大震災の、特に津波被害によって多くの都市機能、生活機能を喪失した。一方、岩手県の内陸部は、地震の被害はあったものの、生活インフラは残っており、発災後すぐに沿岸地域の緊急支援に動き出す等、それぞれの自治体が沿岸地域の復興に向け必要な役割を担っている。

現在は、沿岸地域ではまだ行政機能、産業機能、生活機能等は震災前とは程遠い状況であり、喪失した機能をいかに担保するかは大きな課題である。この状況は内陸市にとっても、沿岸地域を復興へいかにサポートするかという大きなミッションを与えており、様々なセクターが協力して、より効果的な活動を行うことが必要不可欠であると考える。

本稿では、岩手県北上市で現在行われている、これまでの地域づくりや市民参画・協働の基盤を活用した効果的に後方支援機能を確立するための取り組みを紹介する。

 


〇北上市における被災地支援の取り組みについて

北上市は、岩手県南部に位置する人口約9万3千人の地方都市である。古くは北上川舟運、現在は新幹線、東北本線、東北自動車道といった南北の交通網と、秋田自動車道、JR北上線といった岩手と秋田を結ぶ交通が交差した交通の要所のまちであり、様々な立地企業と、広大な農地が共存する典型的な東北の中規模都市である。

北上市は、東日本大震災では震度5強の地震によって、大規模な停電、断水、学校等公共施設、道路、橋脚等の破損等が発生しており、11月現在においても市内の一部の公共施設、道路等は継続した復旧事業が行われている。

沿岸地域への支援は、発災直後から地元企業、市民活動団体、行政がそれぞれ、沿岸地域のインフラ復旧、生活支援、産業支援等の活動を行っている。

そして、5月23日には、北上市が「沿岸地域被災者支援プロジェクトチーム」を立ち上げ、ワンストップでの被災者、避難者の支援、沿岸地域の支援体制の構築した。

また、さらなる情報収集と支援事業の充実に向け、県内の中間支援組織が連携し設立した「いわて連携復興センター」と北上市は「沿岸被災地復興のための協働支援協定」を締結し、協働での支援スキームの構築を行っている。

 


〇きたかみ復興支援協働体とは

今回の震災後、北上市には岩手県沿岸地域、また宮城県、福島県から約580名の被災者が避難してきている。この避難者の方の生活支援、復興への手助けと、内陸自治体としての沿岸地域の後方支援体制を構築するために、北上市、北上市社会福祉協議会、北上雇用対策協議会、黒沢尻北地区自治振興協議会、いわてNPO-NETサポート、いわて連携復興センターが、「きたかみ復興支援協働体」(以下、協働体)が6月に準備会を立ち上げ、8月に設立した。

北上市、社会福祉協議会、雇用対策協議会が連携しての、健康面、生活面、雇用面での多重的なサポートや、多くの避難者が暮らす黒沢尻北地区における自治協議会と連携したコミュニティ支援、いわて連携復興センターが沿岸地域の情報や支援ノウハウを提供、北上市内の中間支援組織であるいわてNPO-NETサポートがこれらのコーディネートを行うという体制をとり、毎週のミーティングで情報共有と課題抽出、支援方策の決定を行っている。

この活動拠点として、岩手県の平成23年度新しい公共の場づくりのためのモデル事業を活用し、きたかみ震災復興ステーションを9月1日に設置した。

 


〇きたかみ震災復興ステーションの機能

きたかみ震災復興ステーションは、以下の2つの課題がきっかけとなり設置された。

【課題①】

内陸の避難者においては、仮設住宅や一次避難先においては、被災地域情報や各種支援情報の入手が可能な状況が比較的整っている。しかし、自宅およびアパート借り上げ等のよる避難者においては、必要な情報になかなか手が届きにくくなっており、さらにコミュニティの分散により、人と人との情報交換の機会も少なくなっているのが現状である。

【課題②】

これまで多くの団体、研究機関等が被災地支援を行ってきている。しかし、どの地域でどのような活動をしているかの情報共有は難しく、また、現地からの支援ニーズを共有することも難しいのが現状である。さらに、今後、復興計画の策定および実施においては、地域間の情報、ノウハウを共有することが、その精度を高めるためには重要であるが、現状では、その体制ができていない。

 

これらの課題の解決に向け、きたかみ復興支援協働体では、避難者、そして支援者の情報と人の交流スペースを構築し、広範な被害が発生した地域それぞれとがつながりを持つこと、またその情報を集約・発信し、それぞれの課題を解決に結びつけることを目的として「きたかみ震災復興ステーション」を立ち上げた。

これによって、内陸避難者支援においては、雇用対策協議会、地域コミュニティと様々な地域内ボランティア団体とつながりのある中間支援組織が同じ窓口を持つことによって、雇用や暮らしの相談対応、コミュニティ形成支援等、ワンストップでの効果的なサービスが可能になっている。

さらに、日本都市計画学会、日本建築学会、日本都市計画家協会、地域公共交通プラットフォーム、弘前大学など、複数の団体や研究組織等がステーションを活動拠点として位置付けており、またいわて連携復興センターの情報センターも併設されていることからも様々なセクター・分野の情報が集約され、ノウハウの共有ができるこ環境になっている。それによって、単体のプラットホームで活動するよりさらにより多様な情報のもと、効果的な復興活動をより促進させる効果もある。

このように、現在構築されている様々なプラット「ホーム」が集まり、情報やノウハウを共有、交流する場として、「駅」の機能を果たすのが、「ステーション」たる所以である。

 

<交流・研究ステーション>

〇交流・研究オフィスの構築

・各種学会等研究者の交流・研究オフィスの設置

〇ボランティアバス運行支援

・学生ボランティアや地域ボランティアのバス運行を支援

・仮設住宅生活環境充実事業 (仮設住宅カスタマイズ事業の実施)

〇各種団体・研究者のコンシェルジュ

・研究者、ボランティアへ宿泊先等の紹介

・被災地域視察支援

・ボランティア、NPO等の会議推進支援(会場確保等)

〇復興における情報交換会

・復興サロン(研究者からの情報発信)の実施

・被災自治体職員を招いた復興計画の説明

 


〇なぜ北上が設置できたか~北上市の地域づくりの推進~

今回、きたかみ震災復興ステーションが立ち上がり、内部避難者と広域の両面をサポートできる体制を構築できた背景には、北上市における協働推進と地域づくりの基盤が大きな要因としてあげられる。

北上市は、2006年から16地区にある公民館を「交流センター」へ移行し、生涯学習と地域づくりの拠点として、地元自治協議会が指定管理者となり、地元雇用により運営をしている。さらに市の総合計画基本計画には、16地区の自治協議会が独自に策定する「地域計画」が位置付けられており、それぞれの自治協議会が計画的に地域づくりを推進している。予算に関しても、それぞれのコミュニティは市の補助金に依存せず、県・国、民間団体からも資金を獲得しながら、地域が目指すべき姿に向け、自立した活動を行っている。

また、2006年にはまちづくり協働推進条例を制定し、協働によるまちづくりに向け、市民活動情報センターを設置、さらに企業の地域貢献褒賞制度等により、市民活動や企業の地域貢献活動を推進し、そして現在では、総合計画におけるPDCAサイクルへの市民の参加が具現化、自治基本条例の検討等によって、市民参画・協働に関する基盤も構築されている。

そして、市内の持続可能な社会構造の構築の検討においては、国土交通省の新たな公によるコミュニティ創造モデル事業や緊急雇用対策事業を活用し、福島大学名誉教授の鈴木浩氏、弘前大学教授の北原啓司氏など、様々な研究者の支援を頂きながら、いわてNPO-NETサポートと北上市関係部局(企画、都市計画、農政、商業等)、各自治協議会が協働でワークショップを行い、その成果を各種政策に活かす等、研究者、NPO、地域コミュニティ、行政が一緒になって、まちづくりの方向性の検討を行った実績もある。

このような元々の基盤が、今回のきたかみ復興支援協働体の設立、震災復興ステーションの事業にも大きな機能を果たしている。

 


〇さらなる沿岸地域支援に向けて

~大船渡仮設住宅支援員配置事業~

北上市の地域づくりのノウハウ、ネットワークは沿岸地域での支援活動にも活用されている。

岩手県大船渡市には、現在、37の団地に1805戸の仮設住宅団地が建設され、約4500名の住民が暮らしている。仮設団地の生活においては、コミュニティづくりの必要性が高まる中、大船渡市は、この37団地全てに常勤の「支援員」を配置し、保健師や生活相談支援員等と連携した包括的な支援体制を整えている。そして、その支援員の配置は北上市が担っており、自治体間連携の中で、民間事業者、NPOがさらに協働することによって事業を推進している。

具体的な事業スキームは、緊急雇用対策基金を活用し、北上市が㈱ジャパンクリエイトに業務を委託し、大船渡市内の地元雇用によって支援員を配置するかたちをとっている。支援員は、およそ30戸に対し1名配置されており、現在37仮設団地に計70名の支援員が勤務している。また、この支援員を配置するエリアマネージャーと、対外的な窓口となるコールセンターを設置し、計81名の大船渡市民が従事する事業である。

支援員のミッションは「仮設住宅に住んでいる人全てが健康で前向きな生活を送れる環境をつくる」ことである。具体的な業務は、集会場や談話室の管理、各種支援団体の受付窓口、仮設の見守り、朝の声かけ、住民からの相談受付、団地内広報の作成、行政文書の配布等である。さらに全ての団地にインターネットがつながるPCを設置し、情報伝達の即時性を高めるとともに、住民の情報インフラとしても役立てている。

さらにこの事業の推進にあたっては大船渡市の関係課(都市計画課、生活福祉部等)、社会福祉協議会、警察、岩手県、NPO等と月2回の会議により情報共有を行っている。この会議によって、それぞれの役割を再認識し、また現状を共有することで各組織が効果的に動け、多様な仕組みをより活用できる体制を構築している。

今回の事業においても、協働体のメンバーである北上市といわてNETサポート、いわて連携復興センターの3者が、コミュニティづくりのノウハウの提供や各種支援団体との調整、連絡調整の会議の運営等を担っている。さらに復興ステーションに集う様々な分野の専門家、研究者が、仮設住宅団地のリノベーション、仮設団地におけるコミュニティ形成のノウハウ等を、研修や現地でのワークショップ等により、提供することで、より効果的な活動に結びついている。

今後、仮設住宅団地における見守り体制の強化や、コミュニティの醸成においては、本スキームは有効であると考えられ、他自治体の状況にあわせた横展開や、大船渡市内における他事業との連携、復興活動への展開など、さまざまな可能性が期待される。

 


〇きたかみ震災復興ステーションの可能性

きたかみ震災復興ステーションは今後、北上市がこれまで培ってきた地域づくりのノウハウと、日本都市計画家協会、日本都市計画学会、日本建築学会やさまざまな研究機関、研究ネットワークに協力をもらいながら、それぞれが持つ多様なまちづくりのノウハウを集約させ、沿岸地域の各自治体において、住民が主体の復興に向け、長期的な支援を行っていく。

今後、内陸避難者への支援はもちろん、ステーションとしての役割を果たすため、以下の3点を柱に活動を進めていく。

①    地域、分野を超えた復興情報の蓄積

各市町村における復興計画や、各コミュニティで行われている復興ビジョンづくり等、計画づくりから実施、評価に至るプロセスの情報を集約、解析、共有することで、それぞれの計画の精度を高める支援や、それぞれの計画の実施、評価、改善を行う際に有益なデータベースを構築する。

②    住民主体の地域づくりに向けた各種支援

住民主体での地域づくりに向け、地域コミュニティと行政との連携や市民参画の仕組み、地域づくりの人材育成等、コミュニティのさらなる活動促進と、コミュニティの力をいかしたまちづくりに向けた仕組み構築について発信・提言を実施する。

③    今後起こりうる災害に向け、防災・減災・復興のためのノウハウの共有、指針づくりの支援

今後、もしこのような災害が生じた場合に、何をすればよいか、また防災、減災に向け何を取り組まなければいけないか、様々な分野、地域の事例を収集、解析し、今回の復興はもとより、未来に向けての指針づくりを行う。

 

この取り組みは、基礎自治体、NPO、研究機関それぞれでは、難しい取り組みであるが、今回のステーションに多くの思いを同じにしたメンバーが集まることによって可能となる仕組みである。きたかみ震災復興ステーションは、この「集まる場」「つながる場」をつくることが最大の機能であり、今後も復興に向け、多様な「場」を提供していく。

今週のステーション予定表

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